(真田主従×1・伊達主従×1) 【夏】 (真田系) 「暑い、な」 「うん、暑そうだね」 ぜぇぜぇと息を切らせている幸村の脇で、佐助はのんびりと、木陰にしゃがみ込んでいる。 手に顎をのせ、ぼんやりと。 直射日光を浴びつつ必死に槍を振り回す主人を眺めながら。 「あんまりやりすぎても身体に毒だよ、旦那」 「分かっている!っは、っ!」 応えながらも矢張り身体を動かし続ける幸村を見ながら、ありゃ絶対分かって無いなー、と独り言の様に呟いて。 佐助は上を向いた。 葉桜である。そういえば、今年はこの桜が咲いている所をきちんと眺められたのだと佐助は思い出した。 ここ数年は咲いている時期に任務が入っていることが多く、庭の桜を眺める等という、そんなことすら出来ていなかったのだ。 生い茂った葉の隙間から差し込む光が眼に痛く、結局佐助はすぐに視線を戻した。 ――紅い。 鉢巻、衣、槍、小手、具足。 全てが紅いその男が、炎と舞い、躍動している。 ――――紅い。 「佐助?」 不意に呼びかけられ、我に返り、一瞬脳裏に浮かんだ映像を振り切るように首を振り。 佐助は笑った。 幸村は動きを止めている。 「なに、旦那」 「すまぬ、が。水と飯の、した、――く――」 「ちょ、っと!旦那!?」 ゆらりと崩れ落ちる幸村を、咄嗟に駆け寄り佐助は支えた。 ――言わんこっちゃない。 妙に何故か、安心したような心持になりながら。 そのまま気を失った幸村を、佐助は肩に担いで跳んだ。 【終】 ※※※ 【夏】 (伊達系) 「暑ィ」 「然様で」 ――遠くで蝉の声がする。 ただでさえ五月蝿く苛々するその声は、夏の暑さに加わる事で、政宗には非常に不快に感じられる。 半ば八つ当たりと自身で心得ながら、政宗は肌蹴るだけ肌蹴た衣服もそのままに寝転び、眼前の小十郎を睨んだ。 「…このクソ暑いってのに、なんでテメェはンなにきっちり着込んでんだよ」 「政宗様の御前ですから」 「暑くねぇのか」 「暑いに決まってます」 しれっと言ってのける小十郎に何か言ってやろうとよくよく見れば、小十郎の額や首筋には汗が滲んでいる。 それでも居住まいを正していられるだけの余裕があるということか、それとも単に、それでも居住まいを正していられるほどの精神力が小十郎を支えているだけなのか。 おそらく後者だろうなと思いながら、政宗は緩慢な動作で上半身を持ち上げた。 「俺が許す、脱げ」 「なりません」 「Ah?」 「武士たる者、いつ死んでも良い様に身なりを整えておくのが礼儀です」 しれっと言ってのけた小十郎に、政宗は隠そうともせずに不快感を顔に出した。 そんな政宗の様子にも、小十郎は動じる気配すらない。 吐き捨てるように、政宗は口を開き。 「ハッ、俺は良いのかよ」 「はい」 「あ?」 「政宗様は、小十郎が死なせませんから」 先程からまるで変わらず、外では蝉が鳴いている。 そこへふと――誰がどこへ仕掛けたものか――りんという風鈴の音が一音響いた。 小十郎は目を閉じ背筋を伸ばしただ座している。 政宗は小十郎から視線を逸らした。 「…あ、そ」 ごろりと。 再び横になり、政宗は小十郎から顔を背けた。 「暑ィ」 「そうですね」 りん、と。 また風鈴の音が響き――。 【了】 ※※※ 暑。 〜07/09/14使用 |