(佐&小×1) (政宗1章の上田城で半兵衛とかが来なくてかつ佐助が実際にいる門の一部屋先にいるということにして下さいSS) 【無題】 喚声と、金属音や鈍い衝突音に混じる、火器の音。 硝煙と砂埃、火薬と土の匂い。 それに。 鼻に付く、血の、錆臭さ。 踏み締める石畳は、無残に赤黒く染め上げられ。 ざり、と。 背後から近付く、足音。 「っはぁ!!」 振り向き様、気合と共に息を吐き。一閃。 倒れこむ敵兵の、その後ろから躍り出た影を瞳で追う。 ――速い。 一兵卒等ではない、この速さは――、と。 しかしそこで思考は中断された。 見えていたというより殆ど勘で、反射的に抜刀した。斜に構えた刀に、何かの当たる音と衝撃が走る。 落下するそれを横目に確認しつつ、発されたと思われる方向を辿れば、見覚えのある人影があった。 落ちたのは、苦無。 簡易な手裏剣と違い、苦無は飛道具として使うに難易度が高い上、値段も張る。 ――となれば視線の先に居る者は、勿論木っ端などではなく。 「――忍は、苦手だ」 「あれれ。嫌われたもんだね、俺様も」 派手な橙の髪、黒が基調の最低限の金属しか使用していない軽装備に、緑地の布。 矢張り戦場にて、見覚えのある忍がそこに立っていた。 軽口を叩き嗤っている姿は決して恐ろしくはない。 恐ろしくはないが、同時に隙も、決して無い。 「まぁ、政宗様の敵は大概『嫌い』ってことになるんだろうな」 「そうだね。ま、俺も旦那の敵は好きじゃないかな」 忍が、軽く地を蹴って。 来る、と思った瞬間、既に目の前にいた。 振り下ろされた巨大な手裏剣を、しかし咄嗟にその刃の間に剣を入れて防ぐ。 不快な金属音が、ぎちぎちと鳴る。 「おたくの大将は嫌いだけど、右目の旦那はそんなに嫌いじゃないよ」 「そうか」 「だからさ、大人しく帰ってくんない?」 「帰ると思うか?」 「いいや。だから俺はあんたのこと好きだし嫌いだ」 「嫌いなんじゃねぇか」 「そっちが先に嫌いって言ったんだろ」 そうかもな、と。 軽口をたたきながら、空いている手で向けられたもう一つの巨大な手裏剣を、懐の小刀で止めた。 口笛を鳴らす忍は、両の手に力を込めてくる。 が、いくら体制が悪いと言っても、忍相手に力勝負で負ける訳にはいかない。 一旦蹴とばして距離を持とうと思い片足を引いた瞬間、逆に後退されてしまう。 「この先で、真田幸村は政宗様を待ってるんだな」 「ああ。だから俺はここを任されてるってわけ」 「お互いに戦いたがってんだ、戦わせてやれよ」 「あんたに言われたくないね」 ――何を、言っているのか。 首を曲げ顎を引き、俯き気味に俺は嗤った。 喋る間も続いている斬り合いの手を一瞬弛め、相手の手を狙い下から切り上げ、手裏剣を飛ばす。 「俺は、真田幸村に手出しはしない」 忍が、怪訝な顔をする。 手には既に手裏剣が戻っている。その手と手裏剣は、何かで繋がっているらしい。 真田幸村は政宗が単身敵地に突っ込み、会いに行くような相手だ。 自分がその勝負を汚してはいけない。 家臣が、主君の邪魔をしては。 勿論それが伊達家の、そして政宗の為にならない事であれば、勿論自分とて命を張って止めようともするだろう。しかし、そもそも真田幸村という存在のある限り伊達政宗が伊達家の為に動けないのだとすれば――乗り越えることが、政宗の為になるのであれば――自分は逆らうことなど出来ない。 「はぁ?何ソレ。あんた殿守らなくていいの?」 「だから、こうして露払いしてんだろうが」 「意味分かんないね」 「てめぇに分かって欲しいなんざ思ってねぇよ」 「ああ、そう」 真剣勝負は、お互いに万全の状態で行われるべきものだ。 一方が疲弊しきっているのでは話にならない。 政宗を、邪魔する訳にはいかない。 ならば自分に出来るのは、その邪魔をする不安要素を片付けること。 せめて万全の状態であれと、気を配ること。 「てめぇは一つ勘違いしてる」 「何を?」 「てめぇの、目的と。俺の目的が違うってことに気付いてねぇ」 「馬鹿言わないでよ、分かってない訳ないっしょ。俺は旦那を守るために、アンタは、あ――」 違う、と。 漸く気付いたらしく、心なしか顔が蒼褪めた。 自分には、この忍を倒す必要はない。 要は邪魔をさせなければ良い訳で、真田幸村はこの奥にいるのだから、つまりこの奥に、政宗以外の誰も行かないようにすれば良いのだ。 だが、目前の忍は違う。 幸村を守ることが目的である以上、俺を必ず倒さなければならない。俺を含め伊達軍の一切をここから先に通してはならないし、この奥を守らなければならない。 上田城には、裏道がある。 本来は当主ともあろう者が裏道から侵入するというのも若干気が引ける話だが、そもそも一騎打ちが目的で乗り込んでいる訳なのだから、目的を達成すればこちらの勝ちである。 勝つ為ならば、それ位は当然。この程度は策でも何でもない。政宗の影武者を少し前の所まで連れてきておいたことを含めれば、多少は策らしいこともしたと言えなくはないが策にしては随分と御粗末な策だ。 裏道も当然ある程度警備はされているだろうが、この忍以上に厄介な敵はいないし、共に武将を何人かつけているので政宗が余分な負傷や疲労を抱えることもないだろう。一般兵相手であれば地の利位は引っ繰り返せるだろうし、複数人行かせたのだから罠の被害もおそらく政宗には及ばない。 そもそも及んだところで、それで大人しくなるような男ではない。 「ダンっ…」 「おっと!どこへ行く気だ、まだ勝負は付いてないぜ」 その進路に周り、踏み出した足のすぐ前に刃を当て、言った。 緑の布地が破れ、糸屑が風に舞う。 「っ、時間稼ぎに付き合ってる場合じゃないんだよ!俺は、」 「残念だが、俺はそういう場合なんでな」 「あんたは良いのか。大事な主君が、死ぬかもしれないってのに」 「それがどうした」 虚を疲れたのか、相手の動きが一瞬止まった。 その顔に刺さるよう、狙って容赦なく利き手で突きを繰り出す。 勿論、後方へと飛びのいた相手に、軽く避けられてしまったのだが。 「家臣がそんなんじゃ駄目でしょーに。薄情な腹心だね全く、竜の旦那も可哀想なこって」 「政宗様が望むのであれば、とっくにその場に行っている」 「じゃあアンタは来なくてもいいからさ。俺は行かせてよ」 「そんな気も漫ろな相手を、この俺が取り逃がすとでも思うか」 ましてや、今まで十分斬り合って、疲れている相手に。 勿論それは小十郎にも言えることだが、佐助の方が、僅かに息が上がっていた。 城は責めるより守る方が難しいという。 敵は一箇所だけでなく、どこから進入してくるか分からない。よって警備には随所を逐一確認しなければならない筈だ。忍の得意とする機動力が、ここぞとばかり、存分に発揮されなければならない。 となれば、目の前の忍も、忙しく駆け回っていたのだろう。 だからといって、手心など加える気は全く無いが。 「大体行ってどうする。真剣勝負に水差すなんざ野暮天のすることだろうが」 「野暮だろうと何だろうと、死んだら御仕舞いだろ。なんでアンタ等はそうやって――」 佐助は心底厭そうに――意味の分からない事に命を懸けるんだ――と続けた。 そうかこの男は武士ではないのだと、今更ながらに思う。 ならば確かに分からないかも知れない。 こんな、馬鹿な世界は。 「武士だからだろうな」 仕方ない――と、笑って言った。 忍は眉を顰めた。 「あ、そ。揃いも揃って馬鹿だねホント」 「そうだな。お前の所の主人と一緒だ」 「全くね。――馬鹿ばっかりで疲れるったら!」 相手が切りかかろうとした、その時。 ――ごろり。 石畳の先、空いた扉。階段から落ちてきたのは、一人の人間。 おそらく、人間であったものだ。 そして。 段を踏みしめ、降りてきたのは。 ―――降りてきたの、は。 【了】 ※※※ 一番初めにもの凄い短期間だけ拍手お礼だったものの改訂版。 『政宗が上田城に乗り込む時の小十郎と佐助とか書いてしまえば良いじゃない』という友人の台詞に見事に唆されて書きました。 リクに応じたといえば応じていたんですが、当時はバサラ2やる前だったので無双の城内戦イメージで畳とか書いてました。我ながらひどい。 とりあえず半兵衛とか来なかった上田城だと思って下さい。 しかし初めのお礼がこれって暗すぎたのではないだろうか。 06/11に数日間使用 07/01/25.up |
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